いま手に持っているスマホも、朝乗った自転車も、誰かが「削った」金属でできています。その削る側の機械と、それを作っている日本の会社の話です。
まず、身の回りで「削った跡」を探してみてください
スマホの側面を指でなぞると、つるっとしているのに、光の角度によって細い筋が見えることがあります。あれは金属を削った跡です。
自転車のペダルの軸も、車のエンジンの内側も、同じように金属のかたまりを削って形を出しています。では、その削る作業は誰がやっているのか。人の手ではありません。機械です。
そして、その「削る機械」にも、ちゃんと名前があります。
機械をつくる機械、それが「マザーマシン」
金属を削ったり研いだりして部品の形を作る機械を、工作機械と呼びます。
経済産業省の資料には、こう書かれています。
工作機械は、「マザーマシン」や「機械を作る機械」とも称され、切削加工等を主な機能とする
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(経済産業省「工作機械及び産業用ロボットに係る安定供給確保を図るための取組方針」令和5年1月19日策定・令和6年3月26日改定)
業界団体である日本工作機械工業会も、公式サイトで「機械を作る機械」「マザーマシン(母なる機械)」と説明しています。仲間内のあだ名ではなく、国の政策文書にも出てくる呼び方です。
同じ経産省の資料には、もう一文、気になる記述があります。工作機械と産業用ロボットの活用が欠かせないと想定される工業製品・業種の割合は、2020年の製造業の名目GDPのうち約5割を占める。そのうえで「代替物資は存在しない」とも書かれています。
代わりがきかない。だから「母なる機械」と呼ばれるわけです。
工作機械の世界シェア、日本は何位なのか
ここは憶測で書けないところなので、公式の統計をそのまま引きます。
日本工作機械工業会が2025年9月に公表した『MACHINE TOOL INDUSTRY JAPAN 2025』によると、Gardner Publications社の調査「World Machine Tool Output & Consumption Survey 2024」での工作機械の生産額(金属切削型と金属成形型の合計)の順位は、次のとおりでした。
- 1位:中国(15年連続)
- 2位:ドイツ(2年連続)
- 3位:日本
つまり、生産額で見れば日本は世界3位です。「日本の工作機械は世界一」と書かれた記事も見かけますが、少なくともこの統計のこの年次では、そうではありません。
ただし、かつては1位でした。同工業会の説明によれば、日本は1982年に米国を抜いて国・地域別生産額で世界1位となり、その後27年連続でその座を保ちました。1990年には過去最高の1兆3,034億円。しかし2009年には4,863億円まで落ち込んでいます。
直近の数字はどうか。2024年の日本の工作機械生産額は9,013億円で、前年から14.3%減り、3年ぶりに1兆円を割りました(経済産業省の生産動態統計をもとに同工業会が公表)。
それでも「世界で買われ続けている」と言える理由
順位は3位。それでも「世界で買われ続けている」と言えるのは、別の数字があるからです。
1つめ。2024年の輸出比率は84.5%(輸出額÷生産額×100)。作った額の8割以上にあたる分が、海外へ出ています(同工業会。輸出は財務省貿易統計、生産は経産省統計)。
2つめ。同工業会の「2025年12月分受注確報」によると、2025年1年間の受注総額は1兆6,043億1,900万円(前年比108.0%)。その内訳が、
- 内需(国内からの注文)4,408億6,200万円(前年比99.8%)
- 外需(海外からの注文)1兆1,634億5,700万円(前年比111.5%)
でした。外需だけで総額の約7割を占めます(この比率は上の2つの金額から筆者が計算したものです)。国内より海外のほうが、ずっと大きい産業なのです。
どの国が買っているのか
2024年の輸出先を金額順に並べると、中国2,053億円、アメリカ1,784億円、インド466億円、韓国307億円、タイ286億円、ドイツ261億円、台湾254億円でした(同工業会)。
おもしろいのは、生産額で世界1位の中国が、日本にとっても最大の輸出先だという点です。自分でもたくさん作っている国が、それでも日本の機械を買っている。
ついでにもう1つ。2024年の日本の工作機械生産額のうち、NC機(NC=機械にプログラムで動きを指示する仕組み)が占める割合は93.5%。ほぼ全部が、プログラムで動く機械になっています。ちなみに生産額のトップはマシニングセンタで37.7%(マシニングセンタ=刃物を自動で持ち替えながら、穴あけや削りを連続でこなす工作機械)。
作っている会社を、2社だけのぞいてみます
DMG森精機:日本とドイツ、両方でできているグループ
DMG森精機株式会社の設立は1948年10月。グローバル本社は東京都江東区潮見、第二本社は奈良県奈良市です(同社「会社概要」)。
ここは少していねいに書きます。この会社を「日本企業」と一言で片づけるのは正確ではありません。同社の統合報告書2025には「旧森精機製作所(CO社)・旧ギルデマイスター社(AG社)統合の歴史」という章があり、日本発祥の旧森精機製作所が日本・米州・東南アジアで持っていた存在感に、ドイツの旧ギルデマイスター社が持つヨーロッパや中国の顧客とのつながりが加わった、と説明されています。日本とドイツの会社が一緒になったグループ、という理解が実態に近いはずです。
数字も公式資料から。2025年1〜12月期の売上収益は5,150億円(うち工作機械3,620億円、MRO・スペアパーツ・エンジニアリング1,259億円、グループ会社売上271億円)。社員数は連結14,026名(2025年12月31日時点)。販売・サービス拠点は128、生産拠点は18です(統合報告書2025、会社概要)。
オークマ:製麺機から始まった、愛知の会社
もう1社。オークマ株式会社の沿革(公式サイト)は、出だしが少し変わっています。
1898年、大隈栄一が「大隈麺機商会」を興し、製麺機の製造・販売を開始。工作機械を作り始めたのは、その6年後の1904年です。うどんやそばを切る機械から始まった会社が、いまは金属を削る機械を作っている。
1937年には工作機械の生産額が国内第1位に。1963年には位置を検出する方式のNC装置(OSP)を自社開発し、同社の言葉では「わが国唯一の機電一体の総合メーカー」となりました。機械の本体だけでなく、それを動かす頭脳であるNC装置やモータまで自社で作る、という意味です。
本社は愛知県丹羽郡大口町。従業員は単体2,396名、連結4,101名(2026年6月時点、公式サイト「基本情報」)。
この世界には、どんな仕事があるのか
業界全体で、約2万6千人
ここまで兆や億の話が続きましたが、そこで働いている人の数は、意外なほど小さいです。
日本工作機械工業会の資料によると、工作機械産業の従業者数は1992年の37,975人がピーク。2003年に22,130人まで減り、そこから持ち直して2024年は26,248人でした。
産業としての規模も、実は大きくありません。2024年の工作機械の生産額9,013億円は、機械工業全体(72兆4,068億円)の1.2%にすぎないと同資料は記しています。
それでも、製造業の名目GDPの約5割に関わる(経産省)。約2万6千人が、その足場のところにいる計算になります。
職種は6つの部門に分かれている
「工作機械メーカー=工場で機械を組み立てる人」だけではありません。オークマの採用サイトでは、職種が6つの部門に分けて紹介されています。
- 機械系部門:研究開発、新機種開発、機械設計、営業技術、システム技術(自動化提案)
- 電気電子系部門:制御ソフトウェア開発・設計、アプリケーション開発、制御装置開発・設計、モータ・センサ・ドライブユニット開発・設計、自動化システム開発・設計
- 製造・サービス部門
- 情報・DX部門
- 営業・広報部門
- 管理・調達部門
ソフトウェアを書く人も、お客さまと話す人も、調達や広報の人もいます。機械工学を専攻していないと居場所がない世界ではない、ということです。
給与の一例も公式資料にあります。DMG森精機の統合報告書2025には、日本単体2025年実績の平均年間給与905万円、2025年新卒募集の想定初任年収として大学院修士課程卒465万円、大学・高専専攻科卒400万円、高専本科卒370万円という数字が載っています。あくまで同社1社の数字で、業界の平均ではありません。
よくある質問
工作機械の世界シェアで、日本は1位ではないのですか?
生産額で見るかぎり、直近の公式統計では1位ではありません。日本工作機械工業会『MACHINE TOOL INDUSTRY JAPAN 2025』が引用するGardner Publications社の調査「World Machine Tool Output & Consumption Survey 2024」では、1位が中国(15年連続)、2位がドイツ(2年連続)、3位が日本でした。ただし1982年から27年連続で日本が1位だった時期があります(同工業会「日本の工作機械産業のあゆみ」)。なお「生産額」「消費額」「受注額」「輸出額」はそれぞれ別の指標で、順位も変わります。
「マザーマシン」は正式な言葉なのですか?
学術的な定義語というよりは通称ですが、経済産業省の政策文書に「『マザーマシン』や『機械を作る機械』とも称され」と明記されており、業界団体の日本工作機械工業会も公式サイトで使っています。公的な文書に出てくる呼び方、と考えて差し支えありません。
文系や未経験でも、関われる仕事はありますか?
メーカーの職種紹介を見るかぎり、営業・広報や管理・調達といった部門があり、経済・経営や外国語、法務などの出身者を想定した区分が置かれています(オークマ採用情報「仕事紹介」)。ただし採用条件は会社ごと・年度ごとに異なるので、気になる会社の募集要項を必ずご自身で確認してください。
スマホの縁に見える細い筋から、1年で1兆6,043億円という受注統計まで、話はひとつながりです。この産業のどのあたりに自分の席がありそうかは、求人票を眺めているだけだと、なかなか見えてきません。
もし「どの職種が自分に向いていそうか」を一度整理してみたくなったら、キャリア相談でご一緒に並べてみましょう。
あなたの給料、同じ業界・同じ年齢の平均といくつ違う?
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