面接が終わって駅まで歩いている間に、さっきの質問はどう答えるのが正解だったんだろう、と考えることがあります。「なぜうちなんですか」「交替勤務は大丈夫ですか」「体力には自信がありますか」「前の会社はどうして辞めたんですか」。聞かれると分かっているのに、その場になると言葉が出てこない質問ばかりです。
工場の仕事でも、聞かれることはだいたい決まっています。ただ、その質問で何を見られているのかは誰も教えてくれません。今回は、会社側が「採用のときに何を重視したか」と答えた数字を確認したうえで、応募する側が面接で確かめておくべきことを国のルールから整理します。模範解答は載せません。暗記して持っていくような正解はない、というのが数字を見た正直なところだからです。
会社が「重視した」と答えた項目には、はっきり順番があります
厚生労働省の「若年者雇用実態調査」は、全国の事業所と、そこで働く15歳から34歳の人の両方に聞く調査です。直近は令和5年(2023年)10月1日時点の状況を調べたもので、事業所側は7,867か所から回答が集まっています。この中に「若年正社員の採用選考にあたり重視した点」という項目があります(複数回答)。
| 重視した点 | 新規学卒者 | 中途採用者 |
|---|---|---|
| 職業意識・勤労意欲・チャレンジ精神 | 79.3% | 72.7% |
| コミュニケーション能力 | 74.8% | 66.9% |
| マナー・社会常識 | 58.6% | 58.1% |
| 組織への適応性 | 53.2% | 51.8% |
| 業務に役立つ職業経験・訓練経験 | 14.7% | 42.3% |
| 知識や技能(資格・専門学力・語学力) | 30.4% | 34.8% |
| 体力・ストレス耐性 | 36.2% | 31.4% |
| 学歴・経歴 | 22.4% | 23.1% |
| 従順さ・会社への忠誠心 | 20.1% | 20.3% |
ひとつ注意があります。この調査は製造業だけの数字ではありません。製造業を含む16の産業をまとめた結果です。とはいえ、順番の大きさは参考になります。
目につくところを3つ。いちばん上の2つは「意欲」と「コミュニケーション能力」で、どちらも7割前後。「学歴・経歴」は23.1%で下のほう。そして「従順さ・会社への忠誠心」は20.3%で、この表で最下位です。黙って言われたとおりにやります、という姿勢が上位に来ているわけではない、ということになります。
よく聞かれる質問は、この表のどこを見ているのか
表と、面接で実際に出る質問を突き合わせてみます。
「なぜこの仕事なんですか」。これは中途採用者で72.7%と最も高い「職業意識・勤労意欲・チャレンジ精神」にあたる質問だと考えられます。ただし項目名は「熱意」ではなく、その仕事をどういうものだと理解しているかという意味の「職業意識」が含まれています。作業内容をどこまで具体的に分かっているかは、話せば分かってしまう部分です。
「交替勤務は大丈夫ですか」「立ち仕事ですが体力はありますか」。近いのは「体力・ストレス耐性」で、中途採用者では31.4%、上位3つと比べるとかなり低い。この質問は、落とすためというより、入ってから続けられるかどうかの確認として聞かれている可能性が高いと読めます。無理だと思っている条件を大丈夫だと答えてしまうと、困るのはあとの自分です。
「手先は器用なほうですか」。実はこの調査に「手先の器用さ」という項目はありません。近いのは「知識や技能」(34.8%)と「業務に役立つ職業経験・訓練経験」(42.3%)ですが、どちらも同じものではありません。この質問が何を確かめているのかは公的なデータからは分からないので、聞き返していい質問だと思います。「どの工程のことでしょうか」と返せば、会社は答えるはずです。
「前の会社を辞めた理由」は、辞めた人たちの答えから考える
同じ調査は働いている側にも聞いています。最終学校を卒業して初めて勤めた会社をやめた理由(3つまでの複数回答)です。
- 労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった 28.5%
- 人間関係がよくなかった 26.4%
- 賃金の条件がよくなかった 21.8%
- 仕事が自分に合わない 21.7%
勤続期間で分けると、1年未満でやめた人は「人間関係」が最も多く、1年から10年未満では「労働時間・休日・休暇の条件」が最も多くなっています。
つまり、やめた理由の上位3つは、どれも入社前に確認できる条件の話です。気合いや根性の話ではありません。同じ調査の満足度でも、賃金への満足度は若年正社員でマイナス5.9ポイントと最も低くなっています。
だから、退職理由のうまい言い換えを探すことにあまり意味はないのだと思います。それよりも、次の会社で同じことが起きないように条件を確かめておくほうが実益があります。その確認は、制度としても認められています。
面接で聞いてはいけないことも、決まっています
厚生労働省は「公正な採用選考の基本」として、採用選考は「応募者の適性・能力に基づいた基準により行うこと」と示しています。採用基準にするつもりがなくても応募用紙に書かせたり面接で質問したりすれば「結果としてどうしても採否決定に影響を与えることとなり、就職差別につながるおそれがあります」としています。
配慮すべき事項として挙げられているのは、次の3つです。
- 本人に責任のない事項:本籍・出生地、家族に関すること(職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産など)、住宅状況、生活環境・家庭環境
- 本来自由であるべき事項:宗教、支持政党、人生観・生活信条、思想、尊敬する人物、購読新聞・雑誌・愛読書、労働組合や学生運動などの社会運動
- 選考の方法:身元調査などの実施、合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断、本人の適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用
知っておく意味は、答え方を用意するためではありません。こうした質問が出たときに、それが自分の力不足のせいではないと分かるためです。厚生労働省は特設サイトを設け、考え方と相談先を案内しています。
応募する側から、必ず確認しておく4つ
ここからは、聞かれる側ではなく聞く側の話です。2024年(令和6年)4月1日から職業安定法施行規則が変わり、募集や求人の申込みのときに示さなければならない労働条件が増えました。追加されたのは、従事すべき業務の変更の範囲、就業場所の変更の範囲、有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)の3つです。
厚生労働省のリーフレットには、求人広告のスペースが足りないなどやむを得ない場合は一部を後で示してもよいが、その場合も「原則、面接などで求職者と最初に接触する時点までに、全ての労働条件を明示する必要があります」と書かれています。面接は、条件を聞く場としてもともと想定されているわけです。
1つめ、交替制があるかどうか。就業時間と休日は、もともと明示しなければならない項目です。日勤だけか、2交替か3交替か、サイクルはどうなるのかを確認してください。手がかりがもうひとつあります。労働安全衛生規則では、深夜業を含む業務に常時従事する労働者には、配置替えの際と6か月以内ごとに1回、健康診断を行うことになっています。「健康診断は年に何回ですか」と聞いて2回という答えなら、夜勤が常時ある前提の配属だと考えられます。
2つめ、配属先。就業場所は「雇入れ直後」と「変更の範囲」の両方を示すことになりました。最初の勤務地だけでなく、将来どこまで動く可能性があるのかを聞いてください。業務内容も同じ考え方です。
3つめ、雇用形態。派遣として雇用する場合は「雇用形態:派遣労働者」と示すことが必要とされています。契約期間の定めはあるか、更新の基準は何か、更新回数や通算期間に上限はあるか、試用期間はあるか。いわゆる固定残業代がある場合は、基本給と手当の内訳、何時間分の時間外手当にあたるのかを記載することになっています。金額だけを見て判断しないでください。
4つめ、寮費。こちらは逆の理由で重要です。寮費は、国が明示を義務づけた項目の一覧に入っていません。自分から聞かないと分からないままです。月いくらか、光熱費や水道代は別か、入退寮に費用がかかるか、給与から引かれるのか。寮つきの求人なら必ず確認してください。
なお、2022年(令和4年)10月1日施行の改正職業安定法では、求人企業に対して「虚偽の表示・誤解を生じさせる表示はしてはなりません」とされ、面接の過程で当初示された労働条件が変わる場合は、その変更内容を速やかに示す必要があるとも書かれています。求人票と面接での説明が食い違っていたら、その場で確かめて構いません。
数字は、会社ごとに違います
最後に製造業全体の数字を置いておきます。厚生労働省の令和7年就労条件総合調査によると、製造業の年次有給休暇は労働者1人あたり平均付与18.8日、平均取得13.7日、取得率72.8%。全産業の取得率66.9%より高いほうです。
ただしこれは産業をならした数字で、応募先の会社の数字ではありません。有給の取得率も、交替のサイクルも、寮費も、聞かなければ分かりません。そして若い人が最初の会社をやめた理由の上位は、その聞けば分かったはずの条件に集まっていました。
面接は試験ではなく、両方が相手を確かめる場です。うまく話せたかどうかより、帰り道に「あれを聞き忘れた」と思う項目がないほうが、結果として長く続く気がします。
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